──Ariesにフラットバーを選ばなかった理由
「コニカル」か、「フラット」か。
グラインダー設計において、この選択は単なる構造の違いではなく、味づくりの思想そのものを決める分岐点である。フラットバーは粒度分布のピークが立ちやすく、明瞭でエッジの効いた風味を引き出しやすい。一方で、Ariesが目指したのは“クリアさ一辺倒”ではない。厚み、甘さ、余韻の持続──それらを土台に、透明感を重ねる「バランス」である。その起点として、私たちはコニカルを選んだ。
コニカルは、豆が円錐面に沿って段階的に破砕・切削される。破砕から仕上げまでのプロセスが一方向に流れるため、粒子の形成が連続的で、抽出時の流体抵抗が安定しやすい。結果として、ボディに厚みが出やすく、甘さの輪郭が崩れにくい。エスプレッソでもフィルターでも、基礎体力のある味を作れるのが強みだ。Ariesは、この“味の骨格”を最優先に据えた。
ただし、従来型のコニカルに甘んじるつもりはなかった。Ariesの83mm大径バーは、スポーク(支柱)を多く設け、エッジを鋭く設計。低速回転でも豆を押しつぶすのではなく、「切り裂くように」切削することを狙っている。切削主体のプロファイルは微粉(fines)の過多を抑え、濁りや過抽出のリスクを低減。コニカル特有の厚みを保ちながら、フラットバーに近い明瞭さと透明感を両立させるための要点だ。
さらに、83mmという大径は、接触面積とトルクの余裕を生み、低回転でも十分な粉砕力を確保する。回転数を落とせば、摩擦熱と静電気の発生を抑えやすく、香気成分の揮散や粒子の凝集を軽減できる。「低回転×高効率」という設計思想で、風味劣化の要因を源流で減らすことを選んだ。大径・低速・切削主体──この三位一体が、Ariesのコニカル採用の核心である。
味のプロファイルは、力強いボディと伸びやかな甘さを基調に、後半へ向けて輪郭が整う。突出したピークで驚かせるのではなく、全体が同じ方向を向く“完成度”を志向する。伝統的なコニカルの豊かさを持ちながら、フラット的なクリアさを帯びる理由は、バー形状・回転制御・素材選定を含めた総合設計にある。
Ariesがフラットを選ばなかったのは、優劣の問題ではない。目指す味が違ったからだ。甘さと厚みを土台に、透明感を重ねる。そのための最適解が、進化させたコニカルだった。コニカルの可能性を、もう一段引き上げる。Ariesは、その思想から生まれている。
